三宝亭のラーメンを食べに行くはずが、気づけば奥只見へ
この日は、新潟県の三宝亭のラーメンを食べに行く予定でした。 開店は11時。 それまでの時間をどう過ごそうかと考えて、ふと「久しぶりに奥只見へ行ってみよう」と思い立ちました。
季節は春。 空気が澄んでいて、朝の光がやわらかくて、まさに最高の一日になりそうな予感がしていました。
朝は5時45分に出発。 本当は夫は病気療養中で、家で静かにしていたほうがいいのかもしれません。 それでも、気分を変えてあげたくて、いつものようにドライブに誘いました。 夫もゆっくりと車に乗り込み、静かな朝の道を走り出しました。
朝ごはんは、沼田のすき家と決めていました。 渋川から沼田へ、国道17号をまっすぐ。 カーブを抜けるたびに、春の光がフロントガラスに差し込んで、車の中が少しずつ明るくなっていきます。

道中、これからのことを話し合いました。 夫に「禁煙、どう?」と聞くと、
「まだやっと我慢できているところだよ」と、少し照れたように答えてくれました。 その声を聞いて、なんだか胸があたたかくなりました。
沼田のすき家に着くと、駐車場から遠くに谷川岳が見えました。 まだ朝の光をまとった山は、静かで、どこか神々しくて。 思わず写真を撮りたくなるほどの美しさでした。
山の花に迎えられながら、22キロの長い道を進む
新潟県魚沼市から右に折れ、奥只見へ向かう一本道へ入ります。 この先に続くのが、全長22キロの「奥只見シルバーライン」。 長いトンネルと山の静けさが続く、まさに秘境へ向かう道です。
走り始めると、道路脇に春の花がたくさん咲いていました。 白くて可憐で、どこか忍冬(スイカズラ)に似た花。 思わず「ちょっと止めて」と夫にお願いして、車を降りて写真を撮りました。 山の空気はひんやりしていて、花の香りがふわっと漂ってきて、 その瞬間だけ時間が止まったようでした。

トンネルを抜ければ、いつもなら奥只見湖が目の前に広がるはず。 けれど、この日はまだシーズン前。 遊覧船の運航は5月20日からで、湖は静かに春を待っているようでした。

シルバーラインは、長いトンネルが続く独特の道。 ライトに照らされた湿った岩肌、ひんやりした空気、 そして時々ふっと開ける窓のような明るさ。 「この先に湖があるなんて信じられないね」と夫と話しながら進みました。
湖のほとりは人影もまばらで、 まるで春の準備がまだ終わっていないような、静かな空気が流れていました。

【奥只見ダム、残雪が見えます】
動かないモノレールの線路が、山の斜面にそっと寄り添うように伸びていて、 その姿を見ていると、 「ここは急がなくていい場所なんだな」と思えてきます。
観光地の賑わいとは違う、 “季節の狭間の奥只見”に出会えたことが、むしろ特別な時間に感じられました。
春の奥只見湖は、まだ静かに眠っていた
観光シーズン前の奥只見は、 まるで深い山の中で“春を待っている”ような雰囲気でした。 人の声もほとんどなくて、 聞こえるのは風の音と、湖のさざ波だけ。
夫もその静けさをしばらく眺めていて、 「こんなに静かな奥只見は久しぶりだね」と ぽつりと言いました。 その横顔を見て、 連れてきてよかったな、と心の中でそっと思いました。
奥只見をあとにして、いよいよ本来の目的だった三宝亭へ向かいました。 開店の11時より少し早く着くことができて,
もう待っている人がいて、店内で名前を記入して並んでいると続々人が押し寄せました。

夫はラーメンが大好き。 特に味噌ラーメンには目がありません。 席に着くと迷わず味噌ラーメンを注文して、 湯気の立つ丼を前に、うれしそうに箸を持ちました。
どう? 美味しい?」と聞くと、 夫は少し考えてから、
「うーん……青森のラーメンのほうがおいしいかな」舘鼻岸壁のラーメンのことを言っています。

【青森舘鼻岸壁のラーメン】
と、正直な感想。 その言い方がなんだか憎らしくて、思わず笑ってしまいました。 青森の味が、夫の中では特別なんだなと改めて感じました。私は五目うま煮めんを選びました。

春の奥只見は、まだ静かに眠っていました。 遊覧船もモノレールも動かない季節だったけれど、 その静けさが、今の私たちにはちょうどよかったのかもしれません。
夫の「青森のほうがおいしいかな」という一言に、 あの日食べられなかったラーメンのことを思い出して、 ちょっとだけ胸がきゅっとしました。
でも、こうして一緒に春の光の中を走れたことが、 何よりの思い出になりました。
静かな場所が好きな方は、 シーズン前の奥只見も、きっと心に残る旅になります。
管理画面が左側


コメント