十年前、私はひとりで禁煙に挑戦した。 家計が苦しくなり始めていた頃で、 夫も吸っていたけれど、 人の嗜好品を責める気持ちはなかった。 だから、自分だけで静かに始めた挑戦だった。
その頃の私は、 お金をかけられる状況ではなかった。 検索して見つけた「イメージ法」だけを頼りに、 のど飴やガムで気を紛らわせながら、 二度失敗し、三度目でようやく成功した。
禁煙ができたとき、 初めて「吸わない自分」を誇りに思えた。 そしてその後、 家族の中でも、いろいろな“変化”が起きていった。
夫が倒れた日――目に焼きついた“血の色”
あの日のことは、今でも忘れられない。 夫が突然、意識を失って倒れた。 アスファルトに顔を打ちつけた瞬間、 私の目に飛び込んできたのは、 見たことのないほど濃い“血の色”だった。
何が起きたのか分からなかった。 ただ、その赤さだけが、 時間を止めたように私の目に焼きついた。

あの瞬間、時間が止まった
救急車を呼ぶ手が震えて、 声がうまく出なかった。 夫の顔は血で濡れ、 目のあたりは形が変わっていて、 「どうか生きていて」と祈ることしかできなかった。
あとで「眼球破裂」と聞いたとき、 あの血の色の意味をようやく理解した。 あれは、命がこぼれ落ちそうになっていた色だった。
生活に現れた小さな異変たち
夫が倒れたあの日から、 私の中で「何かがおかしい」という感覚がずっと消えなかった。
日常の中に、少しずつ“異変”が見え始めたからだ。

身体に起きていた変化
バスタオルには、気づけばカビがついていた。 身体からはうみのようなものが出て、 筋肉は固くこわばり、 動くたびに痛そうにしていた。
病院では、はっきりとした原因は分からなかった。 でも私は、長年そばで見てきたからこそ、 どうしても喫煙とのつながりを感じてしまった。
日常の中で感じた違和感
タバコがすべての原因だと言い切ることはできない。 けれど、 身体の回復力が落ちていること、 免疫が弱っていること、 血流が悪くなっていること、 そのすべてが“あの日”につながっているように思えた。
家族として、ただただ怖かった。 「また倒れたらどうしよう」 その不安が、胸の奥にずっと残っていた。
私がひとりで挑んだ禁煙の10年

夫の異変を見ながら、 私は十年前の自分のことを思い出していた。
あの頃、家計は苦しくなり始めていて、 タバコ代がじわじわと生活を圧迫していた。 夫も吸っていたけれど、 人の嗜好品を責める気持ちはなかった。 だから、まずは自分だけで禁煙に挑戦した。
お金をかけずに始めた禁煙
お金をかけられる状況ではなかったから、 検索して見つけた「イメージ法」だけを頼りにした。 吸わない自分を想像し、 のど飴やガムで気を紛らわせながら、 二度失敗した。 恥ずかしくて誰にも言えず、 一人で挑戦して、一人で落ち込んだ。
二度の失敗と、三度目の成功
でも三度目で、ようやく成功した。 そのとき初めて、 「吸わない自分」を誇りに思えた。
お酒を飲むと吸いたくなる自分も、 そのまま許した。 無理に完璧を目指さなかったからこそ、 気づけばタバコの匂いさえ嫌になっていた。
私は、もともと禁煙体質ではなかった。 だからこそ、
「人は変われる」ということを、
自分の身体で実感した十年だった。

娘の喫煙と、家族で乗り越えたあの日
家族の中で、もうひとつ忘れられない出来事がある。 高校からの電話だった。 娘が、隠れて喫煙していたという知らせだった。
大学進学が決まっていた大切な時期で、 推薦が取り消されるかもしれないという状況だった。 胸が締めつけられるような気持ちで、 夫はすぐに学校へ向かった。
推薦が揺らいだ日、家族で向き合った現実
夫婦で頭を下げた。 娘の未来を守りたい一心だった。 あの日の空気は、今でもはっきり覚えている。
幸い、大学には進むことができた。 娘はその後、青春を駆け抜けるように生きて、 恋をして、結婚して、 禁煙にも取り組んで、 そして可愛い赤ちゃんを産んだ。
あのときの涙も、 あのときの不安も、 すべてが“家族の歴史”になっていった。
夫の禁煙12日目――ふと感じたタバコのにおい

そして今、夫は禁煙に挑戦している。 十二日間、吸わずに頑張っている。 その姿を見るたびに、 あの日の恐怖を思い出しながらも、 「変わろうとしているんだ」と胸が温かくなる。
けれど今日、夫の部屋に入ったとき、 ふとタバコのにおいがした。 吸ったのかもしれないし、 ただ残っていただけかもしれない。
責めないと決めた私の気持ち
問い詰めることはしなかった。 責めたいわけじゃない。 ただ、また倒れてほしくない。 あの血の色を、二度と見たくない。
禁煙は、まっすぐな道ではない。 揺れながら、戻りながら、 それでも少しずつ前に進んでいくものだと、 自分の経験から知っている。
だから私は、 夫の十二日間を信じている。
大切な人に生きていてほしいから。私の静かな結論

タバコがすべての原因だと言い切ることはできない。 けれど、家族として見てきた現実は、 私にひとつの答えをくれた。
「タバコは、やめるべきだと思う。」
それは怒りではなく、 誰かを責めるためでもなく、 ただ、大切な人に生きていてほしいという願いから生まれた言葉。
私は三度目で禁煙に成功した。 娘も乗り越え、 今は可愛い赤ちゃんを抱いている。 夫も、揺れながらも前に進んでいる。
家族は何度も危機を乗り越えてきた。 だから今回も、きっと大丈夫だと思っている。
この記事を読んでいる誰かにも、 もし同じように悩んでいる人がいたら、 静かに伝えたい。
あなたの身体は、あなたの人生そのもの。 どうか、大切にしてほしい。


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